「冬季日本海メソ対流系観測‐2002(WMO−02)」の速報*1
小林文明*2・吉崎正憲*3・柴垣佳明*4・橋口浩之*5・
手柴充博*6・村上正隆*7・WMO-02観測グループ*8
1. はじめに
冬の日本海上で発生するさまざまな気象擾乱を捉える目的で2002年1月に北陸沿岸および日本海上で観測を実施した.2001年1月に引き続き,本プロジェクトを“冬季日本海メソ対流系観測−2002(Winter MCSs Observations
over the Japan Sea-2002; WMO-02)”と呼ぶことにする.本研究の意義や位置づけなど詳細は既に吉崎ほか(2001)で詳しく述べられているので参照されたい.以下,観測の概要とトピックスを紹介する.(小林文明)
2. 観測体制
観測全体としては,地上観測,航空機観測,観測船による特別観測体制が計画された(第1図).また,地上の観測サイトは福井県三国町を中心に,ドップラーレーダー,ミリ波レーダー,境界層レーダー,ドップラーソーダ,地上気象自動観測装置(ウェザーステーション)を設置し連続観測を行った(第2図).2回の強化観測を1月15日09JST〜1月22日21JST(1月前半観測)と1月26日09JST〜2月2日09JST(後半)に設定し,気象庁海洋気象観測船(清風丸,長風丸),秋田地方気象台,輪島測候所,米子測候所,三国町では1日4回(擾乱時には1日8回)の高層ゾンデ観測を行った.また気象観測用航空機G-U(ダイヤモンドエアサービス)を用いて種々の降雪雲システムの内部構造を観測した.(吉崎正憲)
3. 観測期間の天気概況
3.1 強化観測後半における寒気の状況
三国町では,1月前半の観測期間中は顕著な寒気の南下が見られなかったが期間終盤22日から寒気が南下し,24日にかけて約10cmの降雪が観測された.レーダーエコー分布をみると季節風に伴う東西に走向をもつ筋状の降雪セルが卓越した.後半の強化観測では28日〜30日の寒気の南下に伴っていくつかのメソ擾乱が観測された.第3図は三国町における気温と風の時間‐高度断面図である.三国町上空500hPaでは29日03JSTに-33℃の寒気のピークが観測された.28日の日中下層1.5 km 以下に弱風層がみられ,特に地上付近には東成分の風が卓越した.この時,海上ではメソ低気圧が形成された.このメソ低気圧通過時には高度1km以下で20ms-1に達する強風域が認められた.
十数年振りという豪雪が観測された2001年1月と比べて,2002年1月は数回の顕著な寒気の南下はみられたものの総じて暖冬であった.ただし,落雷の点では大きな違いがあり,2001年1月は平年に比べ落雷の少ない年であったのに対して,2002年は活発な雷活動を記録した(第4図).総落雷数でみると2002年1月は2001年の約7倍を記録した(北陸電力LLSによると,2001年1月894回に対して,2002年1月6564回).この傾向は,例えば小松空港における航空機被雷件数にも表れており,2001年1月は10件に対し,2002年1月は28件と大きく上回っていた.
3.2 1月28日から29日にかけての渦状擾乱
寒気場内の日本海上で形成される渦状擾乱はさまざまな形態を有し,その発生メカニズムは不明な点が多い.また,局地的な豪雪,突風,落雷(同時雷撃やスーパーボルト)の観点からも,渦の微細構造を明らかにする必要がある.
GMS画像をみると,総観規模の低気圧通過後1月28日には日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)が卓越し,JPCZに沿って渦列が形成されていた.13JST頃から朝鮮半島の付け根付近で発生した渦は17JSTには日本海中央部に達し,東側にも別の渦が確認された.その後これらの渦は発達し,直径500kmに達するメソαスケールの雲システムが形成され, 29日01JST頃 渦の中心が上陸した(第5図点線円内).高層ゾンデ観測結果からは,渦の形成期である28日21JSTごろ500hPaで明瞭な寒気の移流が認められ,中層での南北温度勾配が顕著であった.
気象庁レーダー画像をみると, 28日21JSTごろから海岸線に沿って南西から北東方向に複数の渦状エコーが明瞭になった(第6図).その中の南西端の渦エコー(図中点線円内)に注目すると,直径約150kmの渦は中心から南西側と北東側に存在するそれぞれ北西から南東に走向を持つフック状のエコーが顕著であり,02:30JST頃渦の中心が観測サイト(三国町)付近を通過するまで複雑にエコーの形態を変化させていた.さらに, この100kmスケールのメソβスケール渦状エコー周辺にはいくつもの20km〜40kmスケール(メソγ)の渦状エコーが発生した.第7図は三国レーダーで捉えた渦中心付近のエコー分布である.レンジ全体に広がる円形のエコーがメソβ渦の中心に対応しており,エコー頂が5kmに達する発達したセルが内在していた.この発達したエコーセル通過時には,アラレ,ガスト,下降流,落雷が断続的に観測された.さらに北側にはレーダーサイトから東10km,北30km付近に中心をもつ直径40kmの渦状エコーが存在し,複雑なマルチスケール構造が示唆された.ちょうど三国町上空を通過した渦について,ドップラー速度データから計算した渦度の時間変化をみると,上陸直前に高度3kmまで増加し,特に下層高度1kmで急速な変化が確認された.また,02:30JSTに放球したゾンデの結果をみると,渦中心付近は後方と比較して2〜3K温位は高く,高度3km付近まで対流不安定がみられた.(小林文明)
4. S帯境界層レーダー・ミリ波ドップラーレーダーを用いた冬季日本海沿岸の気象擾乱の観測
WMO-02期間中,京大・大阪電通大グループは三国町においてS帯境界層レーダー・ミリ波ドップラーレーダーを用いた冬季気象擾乱の観測を行った.境界層レーダーは雨天時には高度5kmまでの水平風の鉛直プロファイルが得られる.また,ミリ波ドップラーレーダーは通常の気象レーダーよりも一桁近く波長が短いため,降雪システムの雲粒・氷晶等の観測が可能であり,レーダー観測範囲は半径30km内である.本研究では,三国沿岸で発生・発達するメソスケール擾乱に着目し解析を行った.
強化観測期間中の1月26〜27日にサブシノプテックスケールの低気圧が北陸地方を通過した.第8図は境界層レーダーで観測された低気圧通過前後の水平風(矢印)と受信信号強度(等値線)の時間・高度変化である.低気圧通過前〜通過時には,南風に伴う20dB以上のエコーが数時間観測された.低気圧通過後には,北風に伴う断続的なエコーがみられた.ミリ波ドップラーレーダーデータから,低気圧後面では北西-南東方向に走向を持つ筋状の降雪システムが南東進し,レーダー上空を何度も通過したことがわかった.第9図は,ミリ波ドップラーレーダーで観測された北西-南東方向の高度2kmにおける反射強度の時間変化である.レーダーから距離-20〜-5kmの海上では降雪システムの反射強度は高く,その中には発雷(*印)を伴う事例も確認された.このような降雪システムは陸地(距離> -1km)に近づくとともに衰弱し,上陸後に再発達することが多かった.
ここで,1月28日05JST付近にレーダー周辺で急発達した降雪セルに注目した(第10図).以下のような降雪セルの詳細な風速変化を境界層レーダーによって捉えることに成功した.第11図は境界層レーダーの受信信号強度(上図),水平風と降水粒子の鉛直速度(下図)である.05JSTには降雪セルに対応した30dB以上の高エコー域が高度3.5kmまで鉛直方向に伸びていた.高エコー頂付近やその前方の一部では,降水粒子は上向きの鉛直速度を持ち,これは背景に強い上昇流が存在することを示している.降雪セル前面の高度1-2kmでは,上向きに1ms-1以上の鉛直速度域が発見され,それは強い北風域と一致していた.高エコー内では,高度3km以下で北風から北西風への急激な風速変化がみられた.次に,このような風速構造がレーダー通過後にもしばらくの間持続したと仮定し,降雪セル周辺のミリ波ドップラーレーダーの視線方向風速の水平分布を調べた.第12図から,境界層レーダー上空の北西風(矢印)に対応したレーダーから遠ざかる風速成分が降雪セル西側で強まっていた.また,北風に対応すると考えられる周囲よりも弱まった風速成分が降雪セル東側に分布していた.この風速域は海岸線から18km内陸側で不明瞭となり,その際降雪セルは衰弱した.(柴垣佳明・橋口浩之・手柴充博)
5. 航空機による混合層及び筋状対流雲の発達過程の観測
航空機観測は,G-IIの航法計器が故障しその修理のために数日を要したため,観測飛行は集中観測期間終了後となった.2月11日には山陰・北陸沖で,ゆっくりと東に移動する南北に伸びたバンド状降雪雲を,2月12日には新潟沖で寒気吹き出しに伴う筋状対流雲を,2月14日には若狭湾付近で海岸線に沿って東西に伸びるバンド状降雪雲を観測した.ここでは,2月12日に観測した対流混合層とその内に形成した背の低い筋状対流雲の発達過程について報告する.
2月12日,西高東低の気圧配置がゆるみ始めた段階で,日本海上に背の低い筋状対流雲が広がった.寒気吹き出しに伴う混合層及び筋状対流雲の発達過程を調べる目的で,第13図に示すように佐渡島付近から混合層内の平均風向に平行に西北西方向へ300kmの地点まで往復飛行(往路: 高度6.5km,復路: 高度0.3km)を実施した.往路では,雲レーダによる雲の鉛直断面観測,マイクロ波放射計による積分雲水量観測のほかに,第13図に矢印で示した地点でドロップゾンデ観測を実施した.復路では,3カ所で4高度の水平飛行からなる鉛直断面観測を実施した.
第14図に示すように,対流雲の高度は300km吹走する間に1.5kmから1.9kmに増加(雲頂温度は-12.5から-16℃に低下),エコー強度も増加傾向を示した.高度0.3kmでは風下に移動するにつれて気温が2.5℃,露点温度が2℃程度増加した.高度6.5kmと比べるとその変動幅も大きいことがわかる.マイクロ波放射計で測定した鉛直積分雲水量は風下側に所々断熱凝結量に近い値が見られたが,全体的に見ると断熱凝結量よりかなり低く,風下に向かうにつれて緩やかな増加傾向を示した.
第15図に示すドロップゾンデ観測から得た温位と水蒸気混合比の鉛直分布から,空気塊が300km移動する間に混合層が400m厚くなると同時に,温位で2.5K混合比で0.3g kg-1程度,混合層全層で加熱・加湿が見られる.雲の微物理構造に関しては,雲粒数濃度最大値は雲底付近に見られ300km移動する間に1000個cm-3から900個cm-3に若干減少,雲水量の最大値は雲頂付近に見られ0.45g kg-1程度で,300km吹走する間ほぼ一定であった.2D-C, 2D-Pプローブで測定される氷晶・降雪粒子の数濃度の最大値は,それぞれ0.6個l-1,10個l-1から3個l-1,40個l-1へと増加傾向を示し,雲レーダ観測の結果と矛盾しない結果が得られた.観測された雲水量の最大値がほぼ一定値を示したのは,300km吹走する間に雲頂温度が3.5℃低下し,氷晶・降雪粒子濃度が増加するため,凝結量の増加を相殺したためと考えられる.今後は水蒸気と熱のフラックス計算を行い,混合層内での水収支・エネルギー収支を明らかにする予定である.(村上正隆)
6. おわりに
2001年1月のWMO-01では10数年振りと言われる豪雪を,しかも強化観測期間内ドンピシャで観測するという幸運に恵まれた.今回も二匹目のドジョウを狙ったが,残念ながらWMO-01ほど幸運には恵まれなかった.しかし,大きなトラブルなく観測を実行できたのは,三国町では既に5年間今回とほぼ同じ体制で観測を行ってきた実績があり,器材の設置や宿泊,生活,あるいは地元の方の理解など環境が整っていたことが大きかった.また,期間中,竜巻,ガストフロントや地上落雷などの小規模な気象現象を至近距離で捉えることができたが,これも長期間の特別観測を行うことで初めて観測が可能になったと思われる.
観測期間中に国内外からさまざまな方が見学に来られて,北陸の雪やアラレ,冬季雷を実際に体験してもらったことは有意義であった.メソ気象に興味を持つ方には是非一度冬の日本海を観てほしいものである.(小林文明)
謝 辞
本観測研究を行うにあたって,科学技術振興事業団・戦略的基礎研究(CREST)からサポートを受けました.また,気象庁気候・海洋気象部海洋気象課,東京管区気象台,秋田地方気象台,輪島測候所,米子測候所,北陸電力・雷センターには観測に協力頂きました.また航空自衛隊小松基地気象隊には資料を提供して頂きました.ここに深謝いたします.
参考文献
吉崎正憲,加藤輝之,永戸久喜,足立アホロ,村上正隆,林修吾,WMO-01観測グループ,2001:「冬季日本海メソ対流系観測‐2001(WMO−01)」の速報,天気,48,893-903.
*1 A report on “Winter MCSs (Mesoscale Convective Systems)
Observation over the Japan Sea in January 2002 (WMO-02)”
*2 Fumiaki KOBAYASHI,防衛大学校地球海洋学科
*3 Masanori YOSHIZAKI,気象研究所
*4
Yoshiaki SHIBAGAKI,大阪電気通信大学
*5 Hiroyuki HASHIGUCHI,京都大学宙空電波科学研究センター
*6 Mitsuhiro TESHIBA,京都大学宙空電波科学研究センター
*7 Masataka MURAKAMI,気象研究所
*8
WMO-02 observation group: 吉崎正憲・加藤輝之・永戸久喜・林修吾・室井ちあし・村上正隆・楠研一・折笠成宏(気象研)・菅野能明・茂林良道(気象庁)・新野宏・佐藤男・柳瀬亘・田中亮(東大海洋研)・渡辺明(福島大)・橋口浩之・川村誠治・河野宜幸・手柴充博・小澤雄一郎・親松昌幸(京大宙空電波)・柴垣佳明・宮本武志・池永大介(大阪電通大)・川野哲也・花田博之(九大)・小林文明・菅原広史・杉本ゆかり(防衛大)・堀江宏昭・黒岩博司(通総研)・近藤里恵(科学技術振興事業団)
図面

第1図 WMO-02観測体制.

第2図 福井県三国町における観測体制.左上図の●は三国における観測サイトを,中央図の●はAMeDAS地点を示す.

第3図 三国町における気温(上)・風速(中)・風向(下)の時間‐高度断面図.上図の点線で囲まれた領域は相対湿度80%以上を示す.


第4図 2001年(上)と2002年(下)の1月の日落雷頻度(北陸電力LLS探知範囲内).

第5図 2002年1月29日00JSTのGMS画像.

第6図 気象庁レーダー画像(2002年1月29日00JST).

第7図 2002年1月29日02:17JSTの高度2kmにおけるCAPPI画像.矢印はエコーの移動方向を示す.

第8図 2002年1月26〜28日の境界層レーダーで観測された水平風(矢印)と受信信号強度(等値線)の時間・高度断面図.

第9図 ミリ波レーダーで観測された北西-南東方向の高度2kmのCAPPI反射強度の時間変化. *印は落雷地点を示す.+(−)が陸(海)の方向である.

第10図 1月28日04:21,04:43,05:06JSTのミリ波ドップラーレーダーの仰角7°の反射強度分布. +印はレーダーサイト, 太線は海岸線を示す.


第11図 1月28日04:30〜05:30JSTの境界層レーダーの受信信号強度(上図),水平風と降水粒子の鉛直速度(下図)の時間・高度断面図.


第12図 1月28日05:06JSTのミリ波ドップラーレーダーの仰角7°の反射強度(上図)と視線方向風速(下図). 正(負)の視線方向風速は, レーダーに近づく(遠ざかる)方向の風速成分である. 矢印は, 境界層レーダーで観測された高度0.5kmの風速を示す.

第13図 航空機観測時2月12日13JSTのGMS-5赤外雲画像とG-IIの航跡図.図中の矢印はドロップゾンデ投下地点を示す.

第14図 w-bandレーダーエコーの鉛直断面,積分雲水量(LWP),高度6.5kmと0.3 kmにおける気温・露点温度の平均風向に沿った変化(沖合い300km(x=-100km)から新潟沿岸(x=200km)まで).

第15図 吹走距離による対流混合層(温位と水蒸気混合比の鉛直分布)の変化.